⇒プロのライターによるインタビュー形式

代表取締役社長 渡辺直樹さんのお話

 いま、世の中がどんどんIT化しています。10年前では考えられなかったようなことがスマホで簡単にできるようになっていますよね。その裏で動いているシステムは誰かが作る必要があり、だからこそシステム業界は慢性的に人材が不足しているのです。数年後は十万人単位で人が足りなくなる可能性があります。

 建設業界と同じく、システム業界は重層下請構造です。元請から1次下請けが受けて、さらに2次以降の下請けに発注します。弊社も2次下請けとして重層構造の一部分となるケースもあれば、長年の取引関係により大手企業と直接取引をさせていただくケースもあります。また、私たちからパートナー企業に仕事をお願いすることも普通です。
 残念なことに、下請けの現場ではお金で安易に人を引き抜くことが横行しています。「うちの会社に来れば同じ仕事をして給料が○○万円上がるよ」などと勧誘するのは本来ルール違反なのですが、目先の条件に惹かれて転職する人がいるのも事実です。その影響もあり社員の定着率はあまり高くないのが業界の常識です。

 私は4年前に入社し、約2年前にオーナーから弊社を引き継ぎました。以来、社員が「この会社で働き続けたい」と思ってくれる会社にしたいと思い、様々な施策を実行してきたつもりです。
業務に関しては、世の中の仕組みを変えていくようなワクワクする仕事にできるだけ多くの人員をアサインするようにしています。モチベーションを高く持ち、必要とされるスキルを磨き続けている人は必ず伸びるからです。私たちは下請けの仕事もありますが、私たち自身で仕事は選べます。

 常駐先にチームで入るためには実力を証明することが必要です。まずは1、2名が現場に入ります。彼らが能力を発揮して「この会社には任せて大丈夫そうだな」と判断してもらえれば、次の段階でより多くの人員によるチーム体制での参画ができます。すると、うちのメンバー間で業務の融通ができるので、残業も減らせるし有給休暇なども取りやすくなります。そのためにも優秀で意欲的なメンバーが揃っていることが必要なのです。

 福利厚生については中小企業ではありえないほど手厚くサポートしている自負があります。誕生日休暇制度は全社員が利用していますし、社員本人や会社に万一のことがあったときの保険にも加入しています。加えて業務中、業務外関係なく全く仕事ができない健康状態になってしまったときに60歳まで月収の6割を保証する「収入保障保険」に入っている会社は珍しいのではないでしょうか。
健康診断のオプション代も補助しています。健康で働き続けられることが一番ですからね。育児休暇明けも同じ仕事に戻れるようにしていますし、時短勤務制度もあります。

 こうした制度を新設するためには各々数百万単位でお金がかかります。でも、社員が「自分の会社のためにがんばろう」と思えるためには必要な投資です。今後も、和気あいあいとした家族的な社風は維持しつつ、「社員にとって有利なのか」だけを基準にして制度を整えていく予定です。
 弊社は私が作った会社ではなく、私のものではありません。働いている社員みんながオーナーなのです。その自覚を持ってもらうため、今年は社員持株会を新設しました。株式の大部分を社員持株会に移動し、会社の業績が上がれば社員株主に優先配当をしていきます。いずれは社員の中から私の役割を担ってくれる人を探そうと思っているところです。






















―渡辺さんへのインタビューを終えて―
 経営者でもない僕が生意気を言うようですが、広い意味での福利厚生の充実に注力している渡辺さんは「目のつけどころがいい」ですね。これからの時代は、何でも話し合えて一緒に前向きに働ける仲間がいることが会社に強く求められると思うからです。長く健やかに働ける環境整備はそのための大前提ですよね。50年後、渡辺さんは中興の祖として社史に残っていると思います。

⇒大宮よりミッションコンピュータサービス様へ
 コンピュータ業界にいる人たちは人間よりもITやゲームが好きなのだろう、という偏見があったのです。でも、御社の若手社員さんたちにインタビューをし、BBQにも参加させてもらって、人懐っこい方が多いことに驚きました。飲み会好きもやたらに多いですね。社長の影響でしょうか(笑)。控えめだけど、話しかけると笑顔で答えてくれる人たち。とても取材しやすかったです。
BBQ会場では、ハイボールの注ぎ場がわからずに僕がウロウロしていたら、Oさんが「何かお探しですか?」とすかさず声をかけてくれました。嬉しかったです。僕のいたテーブルでは、寡黙だけどオシャレなKさんがひたすら肉を焼き、焼きそばも上手に作ってくれましたね。モテそうだなと思いました。

 気遣い上手、聞き上手の人が多い職場の根底には、必ず会社からの愛情があると僕は思っています。あくまで仕事を前提に集まっているので、給料はもちろん重要です。でも、愛情の形は給料だけではありません。好奇心を持って前向きに働くことができるか。プライベートな時間も充実させられるか。そして、定年などで会社を辞めた後も安心して暮らすことができるのか。
会社が社員を使い捨てるのではなく、大切なメンバーとして扱ったとき、職場にはいい意味での余裕が生まれるのではないでしょうか。自分が愛されずに余裕を持つことができなかったら、他人に興味を持ったり優しくしたりすることはできません。
 御社には、良き余裕が生まれつつあると僕は感じました。5年後10年後、それが社風として根付いたら、かけがえのない財産になるはずです。

(2019年7月取材)

 

*ライタープロフィール*

 

大宮冬洋(おおみや・とうよう)
1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。男三人兄弟の真ん中。一橋大学法学部を卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社して1年後に退社。編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターになる。
 高校(武蔵境)・予備校(吉祥寺)・大学(国立)を中央線沿線で過ごし、独立後の通算8年間は中央線臭が最も濃いといわれる西荻窪で一人暮らし。新旧の個人商店が集まる町に居心地の良さを感じていた。今でも月に一度は西荻に「里帰り」している。
 2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。昭和感が濃厚な黄昏の町に親しみを覚えている。平日の半分ほどは東京・門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験中。

<著書>
『30代未婚男』(リクルートワークス研究所との共著/NHK出版 生活人新書)
『ダブルキャリア』(荻野進介氏との共著/NHK出版 生活人新書)
『バブルの遺言』(廣済堂出版)
『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』(ぱる出版)
『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)
『人は死ぬまで結婚できる~晩婚時代の幸せのつかみ方~』(講談社+α新書)
電子書籍『40歳は不惑ですか、惑ですか』


*カメラマンプロフィール*

 

馬場敬子(ばば・けいこ)
 1974年生まれ。18才で長崎県平戸から福岡県博多に出て、突然写真に目覚める。短大を受け、合格。苦学生を経て集英社の撮影スタジオに入社。
仕事の合間にフリーのカメラマンのアシスタントをし、独立を目指す。料理カメラマンの今清水隆宏氏に師事。独立後、料理撮影をメインに、人物、料理、風景を撮影。雑誌を中心に、単行本、webや広告の撮影などを手がける。
 料理ユニット「Soup Caravan」を結成し、『マルベジドリンク』、『マルベジデリ』を出版。